明治大学体育会ワンダーフォーゲル部歌 鉈目(なため)
鉈目(なため)とは、山での道しるべの為に
鉈で樹木の目立つ所に切り込みを入れたもの
作詞・作曲/小林 碧
森深く 迷い辿れば
古きなためは 導きぬ
人の心の しみじみと
なつかし うれし
こ暗きみちに
岨茨 いかにありとも
努め拓きて 共々に
愛のしるべを 刻みつつ
仰ぎて行かん
真白き峰を
※ 演奏:明治大学マンドリンクラブOB会
なために憶う
私の手許に一丁の鉈が残っています。戦後間もない頃、尾瀬へ出かけの帰り鎌田の
鍛冶屋で見つけて手に入れたものです。刃もとの厚みと言い刀先からのくびれた柄へ
かけての角度と言い典型的な山刀で、それ以来私の山行に欠かせないものとなりました。
桜の皮でとぢ合せた木のさやに赤石岳の焼印が残って居るのは二八年夏の南アルプス
縦走の折の記念です。少々刃こぼれはあるものの未だ鋭い光を失って居ません。
その黒びかりした柄を握りしめて居ると若かった頃の幾多の山行がほんの昨日の事の様に懐かしく思い出されます。その頃のワンデルングに鉈は必携品でした。誰のキスリングのタッシュにも鉈の柄がのぞいていたものです。炊事用具として勿論でしたが、未だ山々は荒れ放題でしたし、気持ちの荒んだ物騒な連中が山へ入り込んでいましたから、それに見通の利かない深いヤブ漕ぎを強いられた時など、切れ味のよい鉈程頼りになるものはありませんでした。一日中雨にたたかれて、夕暮れ近く辿りついた火の気のない山小屋で濡れ通ったヤッケや衣類を乾かす焚火を手早くおこすのにも鉈の切れ味がものを云いました。あの頃は今の様に携帯に便利な折りたたみ傘や防水の良く利くビニールなどありませんでした。しかし苦労して起こした焚火に暖まりながら沁々とした語らい過ごす一刻は、大自然の荘厳な一刻、華麗な雲海の日の出にも劣らない、山でしか味はふ事の出来ない体験として何時までも胸にのこる貴重なものだと思って居ます。山の中での生活で火を焚くことは最も重要な仕事でした。そのための鉈は最も大切な道具で常に身近に置いたものです。その鉈で刻みつけた道しるべが鉈目です。以前は深い栂やぶなの樹林帯へ入ると太い幹に点々と打たれて居て単独行の折などは殊に鉈目に依って心をはげまされ、元気づけられることが度々でした。
(BN197 小林碧)